HOME>学校案内>校長室だより学校案内
校長挨拶 施設 学校概要 校章・校歌 校長室だより
校長室だより 第24号
平成27年3月3日(火)

卒業式

 ただ今、389名の皆さんに、卒業証書を授与いたしました。

 まず、卒業される皆さんに、心からお祝いを申し上げます。卒業おめでとうございます。

 また、この良き日、多数のご来賓の皆様、保護者の皆様の御臨席を賜り、ここに、神奈川県立市ケ尾高等学校、第39回、卒業証書授与式を挙行できますことを、厚く御礼申し上げます。

 また、今日の日を待ち望み、支えてくださいました、保護者の皆様、本日は、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。

 さて、卒業生の皆さん、いよいよこの日がやってきました。

 皆さんは、3年前の春、いくつもの岐路を選択しながら、ここ市ヶ尾高等学校で奇跡的に出会いました。

 そして、今日それぞれの希望と憧れを胸に抱きながら、市ヶ尾高等学校を巣立っていきます。

 実は私も3年前、市ヶ尾高等学校に赴任し、この春定年を迎え、卒業をいたします。

 多くの卒業生の巣立ちに立ち会いましたが、私の目の前にはいつも「3年間の青春」がありました。

 そこで展開された、輝くエネルギーと感動の涙の物語の一つひとつが、今も鮮やかに甦ります。

 皆さんと過ごしたこの3年間は、ことのほか思い出深いものでした。

 毎日の学校生活において、すべての行事において、熱い情熱を傾ける、皆さんの存在そのものが感動でした。

 市高最高の言葉とともに、校歌とともに、純粋に素直に仲間と学校を、大切に思ってくれる皆さんが、私の誇りであり、心の支えでした。

 心からお礼を言います。本当にたくさんの感動をありがとう。

 さて、私は皆さんにいつも、学ぶことの大切さを語ってきました。

 「学びなさい。自由と平和と未来のために。」と。

 同時に、自分自身に問うてきました。自由とは何か、平和とは何か、未来とは何か、人間とは何かと。

 残念ながら今この時にも、世界中で暴力や武力行使、紛争により、罪もない市民が毎日犠牲になっています。

 最近、「人は何故平和を願いながら戦うのか」という本を読みました。

 人類は「永遠の平和」を祈りながらも、なぜ戦い続けるのでしょうか。

 この本は、平和を祈りながら戦うという、人間の矛盾を改めて自覚し、それでも人間を信じ、一縷の希望を共有していくことが大切だということを教えてくれました。

 今日は、父の話と、ここにある古い手帳の話をさせてください。この手帳は父の形見です。

 父は、大学で学び始めて間もなく、学徒動員で戦地へと向かいました。当時は、健康な若い男性の多くが戦地へと召集されたのです。

 戦地へ到着して間もなく終戦を迎え、実際に戦うことはありませんでしたが、すぐに日本に帰ってくることはできませんでした。シベリアの収容所で捕虜としての生活を余儀なくされたのです。

 凍てつく大地での労働は辛かったと思います。ある日、大腿部に負った怪我が化膿し、そして動けなくなり、医療テントで横たわる日々が続きました。わずかな食べ物しか与えられず、労働できなくなった若者の行く末を誰もが知っていました。

 この手帳は、配給されるパンを包んでいた袋と包帯で父が作ったものです。

 いくつかの歌が残されています。

 「またシベリアに夜が来た。寂しい夜がやってきた。窓辺に星を眺めつつ、思いは遠く走りゆく」

 「日本を離れて早二年。一日も忘れえぬ母さんの面影、今日も星空に微笑みながら流れゆく」

 「僕も元気でおりますと、心で叫んで涙ぐむ。この寂しさはいつの日に、はるか母さんに届くやら」

 戦地での多くの若者が残した文章の多くには、誰かに対する敵意や悪意よりも、家族や祖国への愛情が満ち溢れています。

 そんな父をかわいそうに思ったのでしょう。世話係の年配のご婦人が、傷の手当をしてくれ、毎日少しずつ、パンやじゃかいもを、そっと毛布の下に差し入れてくれたのです。「誰にも言ってはいけません」と言って。

 自分も家族もひもじい生活であったであろうに、危険を冒してまで、僅かな食べ物を分けてくれたのです。

 おかげで父は回復しました。別れの日、ご婦人は「平和は来る。でもどんなに平和になっても、決して私を探してはいけません」そういって、名前を語ることなく、一枚の写真を渡してくれました。

 その写真とこの手帳を隠し持って、父は復員します。

 父は、シベリアでの辛い経験を、ほとんど語ることはありませんでした。何度も何度も話してくれたのは、遠いシベリアの地にいる、危険を冒して命を救ってくれた人への感謝の思いでした。

 組織や集団としての戦いの中でも、他者を思いやる気持ちや、平和を願う気持ちは、民族や宗教を超えて変わることはなく、人の心には温かい思いが必ず流れているということを語ってくれました。

 昨年の卒業式で、2年生だった皆さんにも、私は、ヴィクトール・フランクルの「夜と霧」の話をしました。覚えていますか。

 どんなにつらい時でも、人として、誇りある態度を取るかどうかは、最後の最後まで自分で決断が下せるのです。

 誰にも奪うことのできない、人間の“最後の自由”、それが「精神の自由」です。

 その「精神の自由」によって、父もまた、命を救われたのだと思っています。

 人間は、限界と矛盾を抱えた生き物です。

 歴史の中で繰り返されてきた戦いの連鎖。

 でも、その愚かさや虚しさを気づくことができるのも、また人間なのです。

 だからこそ、地上の様々な争いに目をそらすことなく、自由と何か、平和とは何か、未来とは何か、人間とはどう生きるべきかを、常に学んでいくことが大切なのです。

 それが、人生からの問いに、全力で応えることだと思います。

 そのことを、決して忘れないでください。

 最後に、皆さんの胸を飾るコサージュは、何ヶ月も前から、沢山の保護者の皆様が、皆さんのために、一つ一つ思いをこめて創ってくださったものです。

 私も、教えていただきながら、一つのコサージュを完成させました。後ろに、Hの文字を刻ませていただきました。2組の皆さんのどちらかの胸を飾っていると思います。

 多くの保護者の皆様と同様に、皆さんのこれからの幸を祈るものです。一生の宝物にしてください。

 皆様の人生が、実り多きものであることを祈念して、私の最後の式辞といたします。


HOME  校長室だより目次に戻る